VENUS
 

ジョルジョーネのヴィーナスの元になったと思われるもの


ルネサンス期において 画家たちは手本を古代ローマの彫刻に求めました
それは ローマ彫刻の生き生きとした人体表現が 
神が自らを真似て作られたとされる人間を 理想に近い形で表していると考えたからです
多くの絵画に現れる人物の原型を 私たちはローマ彫刻に見ることができます

今回取り上げたジョルジョーネの「眠れるヴィーナス」も例外ではありませんでした


   この二つの女性の像を頭の中で合成させてみてください

左の像は「眠れるアリアドネ」です 
眠るということは死にも通じるもので クレオパトラの死とも受け取られることもありました
私は西洋の文学にまったく詳しくなく 昔のこととなればなおのことわからないのですが
その時々に流行った神話や伝説というものがあって 当然その要求として絵や彫刻が作られたと思います
いずれにせよ 美しい女性があられもない姿で横たわっているこの図像は 
取り上げるテーマは違ってもポーズとして後世の画家に影響を与え続けていきます

右の像は「カピトリーノのヴィーナス」です
はじらいのヴィーナスともよばれ まろやかな女性の優しさを表現しています
ボッティチルリの「ヴィーナス誕生」やマサッチョの「楽園追放のイブ」に受け継がれるポーズです
アリアドネの寝姿に比べて 女性的なやさしさやしとやかさをより表していると思います

この二つの像がジョルジョーネのヴィーナスのポーズの原型であるといえるそうです
しぐさの美しいヴィーナスに アドニスの挑発的な寝姿を重ね合わせるというような 形態の模倣だけでなく
ジョルジョーネは文学的な要素も取り入れようとしたようです

  体の向きと背景はこの挿絵に似ています

これは当時流布していた物語本の挿絵です
フランチェスココロンナの「ヒュフロトマキア・ポリフィリ」の中の挿絵だそうです
この時代 森のほとりの泉に眠る女性を描くことが流行し 
それらを見たジョルジョーネが 自分の絵にもそのアイデアを取り入れたと研究家は言っています
「眠れる森のニンフ」はつまり 変身物語のアミュモネ 泉に変えられる女性ビュリビスなどです
そしてこのニンフのポーズは 上のアドニスの像を元に描かれたとされています

図像的にはこのようなものがジョルジョーネのヴィーナスの起源ともなりますが
絵そのものが意味するところは 前頁に書かれた祝婚歌を盛り込んだものでした
ヴィーナスは木陰で休みながらマルスを待っている・・というような内容の詩だそうです
ジョルジョーネのいたヴェネチアでは さまざまな学問に精通することが貴族の証であったりしました
彼らはサロンをつくり そこでさまざまな学問においての議論を重ねて 互いを高めあいました
ジョルジョーネ自身もおそらく 彼らと対等に文学や天文学などのサロンに参加していたことでしょう
そして 貴族たちは絵の中にもさまざまな文学的要素を盛り込んで ジョルジョーネに絵を描くことを要求したのでした
おそらくジョルジョーネの眠れるヴィーナスを見た時 当時の知識人ならばはそこに意図された神話や詩などを読み取ったことでしょう
それが彼らの知的欲望を満たすことでもあったわけです

二つのローマ時代の彫刻と当時流布していたニンフを描いた挿絵が 図像的に「眠れるヴィーナス」のもとになったといえそうです
ポーズとしてはアリアドネやニンフのもののほうが 見た目に大部分を占めるので影響が大きいように感じますが
女性としての美しさや心の動きをふっと表す手のささやかなしぐさを考える時 優位にあるのはヴィーナス像だと思います
そして後続の眠れるヴィーナスの絵たちの起源に置くとすれば アリアドネの像ではなくて 
やはりカステリオーネのはじらいのヴィーナスだと 私は思うのです




なぜ立っているヴィーナスが眠れるヴィーナスの起源なのか・・ そのことをうまく表現できずに VENUSのページをアップしました
自分の好きな絵を並べるというのが 私のHPの最大のコンセプトですので ちょっと内容をさておきました
でも先日Juneさんに関連記事の本をご紹介いただき その中に「ヒュフロトマキア・ポリフィリ」の挿絵を見つけました
私が講義のスライドで見たものでした この画像があればヴィーナスのポーズの変遷を説明できるかと思い
もう一度 VENUSのページを書き足してみました

うまく伝わっていれば幸いです





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